2008年 07月 27日
2日目は、いよいよ剱岳にアタックすべく、午前4時に起床。身支度をして外に出てみると、次第に明るくなってきましたが、どうやら曇天模様です。この日の行程は約10時間を予定していますが、天候はイマイチのようです。岩稜帯を歩くので、何とか晴れてもってくれるように祈りながらの出発となりました。 明治40年7月13日初めて劔岳に登頂したのは、陸地測量部の測量官柴崎芳太郎と案内人の宇治長次郎らでした。当時は、劔岳には登山路がなく、別山尾根も岩壁に阻まれて登山することができませでした(今のように鎖やはしごはありません)。「雪を背負って登り、雪を背負って帰れ」という行者の謎めいた言葉に意味がありました。つまり、柴崎らは、劔岳の東面の大きな雪渓のうちの長次郎谷の雪渓を詰めて、熊ノ岩から左俣に入り、長次郎のコルに上がり、絶頂を極めたのです。 「そこは日本中の山が一望のもとに見えるほど高いところに思われた。遮るものは何一つとしてなかった。どの方向もすばらしい景観にあふれ、区々としては目を牽くものはなく、弾き返すような勢いで全体として迫っていた。なにか、壮大な景観に圧倒されて眩暈がしそうに思われた。」-新田次郎「劔岳-点の記」に書かれた劔岳登頂のときの描写です。 すでにかなりの人たちが出発しており、剱沢小屋に泊まっていた人たちもやってきていました。予定より少し早く出発することにしました。剣山荘の裏手のから右に一服剱への登山道がついています。右手に小さめのお花畑があり、ハクサンイチゲ、シナノキンバイ、ヨツバシオガマ、ハクサンフウロなどが咲いています。 斜面は緩やかに登って行き、ひとつ、ふたつと鎖場が出てきました。最近取り付けられたらしい鎖場の番号と名前を表す金属プレートがあります。露岩になったところを登っていくと、やがて稜線に出て、少し登ると、最初のピークである一服剱(2618m)に到着しました。ここからは前剱の姿を展望できるはずですが、今日はガスのため見ることができません。仕方がないので先に進みます。 一服剱からは武蔵(たけぞう)のコルまで一旦下りとなります。下る途中でいきなり太陽が雲の中から照りつけてきて、幻想的な光景を醸し出していました。武蔵のコルまでくると、ここは岩礫が積み重なった馬の背状の稜線になっていて、右下に武蔵谷の雪渓が見えています。 ここから前剱への登りとなりますが、ガレ場の急登となっていて、しかも浮き石や落石が多いと注意があります。確かに、不安定な足場で登りづらく、慎重に歩を進めると、やがて前方に今にも落ちてきそうな大きな岩が見えてきました。 これが前剱大岩と呼ばれている岩で、この岩の左側のルンゼ(岩溝)状になったところに鎖場があり、この鎖に導かれて通過すると、小さな岩稜を越えると稜線に出ました。その先でルートが二分しているところがあり、左は前剱を巻く道で下山道になっているので、登りは右に入り、岩稜を登っていくと前剱(2813m)の山頂に到達しました。 前剱の山頂に到着したときには、まだガスがかかっていて、剱岳の全貌が現れていませんでした。最初の休憩をかねて朝食の弁当を食べることにしました。すると、次第にガスが切れてきて、これから歩き稜線と剱岳の姿が現れてきました。おお、やっと晴れてキタ━━(゜∀゜)━━ッ!!と、思わずうれしくなってしまいます。振り返ると、剱沢、剣山荘、そして別山などが箱庭にように見えています。 前剱からは、初め剱沢側を通過し、すぐに稜線を乗り越えて、急な岩場の下りとなります。鞍部に鉄製の橋が見え、それを渡ると、岩壁に鎖がつけられているトラバースが見えてきます。ここからが本格的な剱岳の核心部に入っていくことになります。 まずは4mほどの鉄橋を慎重に渡ります。続いて、岩峰の壁に取り付けられた鎖を頼りに、壁を20mほどトラバースし、次第に右上に登っていきます。右下は切れ落ちているのでかなりの高度感があります。 岩峰を巻くように乗り越えると、今度は左に下って行きます。ここにも鎖があるので意外と楽に下りていくことができます。下った鞍部が前剱の門と呼ばれるところで、切り立った岩峰間から別山尾根の西側の景色が眺望することができます。 前剱の門からは、しばらくは安定した稜線を歩くことができ、一息つくことができるところです。ジグザグに少し登ると小さなピークを越え、ケルンのある小広場に出てきます。これから岩稜を越えることになります。稜線の左側(西側)に回り込んで、平蔵の頭(ずこ)の左を巻くように進むと、小さなコルに出て、道が分かれています。登りは右にとり、岩に取り付けられた鉄杭と鎖を頼りに10mほど登ります。この岩峰を越えると、30mくらいの長い鎖が取り付けられているスラブ状の岩場を下ると、小さな鞍部に出てきます。 続いて平蔵谷側(右)の岩棚をトラバースしていくと、平蔵のコルに出ました。ここにはまだ雪渓が残っていて、雪渓を越えると、最後の難関とされている50m近い岩壁のカニのタテバイが待っていました。 カニのタテバイの前には、数人の先行する登山者が順番を待っていました。時間は十分あるので、慌てることはありません。難関だけに必要以上に緊張しないようにリラックスします。最初の足場が少し高い位置にあるので、脚を大きく伸ばして鎖をたぐり寄せて体を引き上げます。岩壁に打たれた鉄杭に足をかけ、岩のホールドと鎖を頼りに登っていきます。右に少しトラバースしてからは、ほぼ垂直に登っていきます。案外、足場や手がかりが多く、傾斜の割には楽に登れます。最後は、右にトラバースして、浅いルンゼの中を登っていきます。 カニのタテバイを通過した後は、左側にある小さな尾根に登っていくと、下降ルートのカニのヨコバイとの分岐に出てきます。 剱沢側のなだからなガレ場を登っていくと、間もなく早月尾根からの登山道と合流します。あとは、ごつごつした岩の上を登っていくと剱岳山頂に到達しました。 剱岳山頂に到着したときには、かなり晴れてきて青空が広がってきました。山頂には次々と登山者がやってきます。30人くらいはいたでしょうか。剱岳はこれまで2998mとされてきましたが、近時GPSを使って測量し直したところ、2999mであと1m足りず3000m峰の仲間入りがなりませんでした。山頂には数枚の山名プレートがありましたが、2998mと2999mの両方がありました。従前山頂に祀られていた祠はなく、新しいものを作るための募金を集めている最中のようです。 岩稜の山頂からの展望は遮るものがない360度パノラマが広がっていました。南方向は、多少雲がかかっていたものの、薬師岳、黒部五郎岳、水晶岳などが見えました(槍ヶ岳や穂高岳は雲のため見えませんでした)。東南には、スバリ岳、針木岳、餓鬼岳など、東から北にかけては、爺ヶ岳、布引岳、鹿島槍ヶ岳、五竜岳が並んでいました。 飽きることのない眺めを堪能しながら、しばしコーヒータイムにしました。結局40分山頂に滞在しましたが、その間は晴れていてラッキーでした。 さて、下山にかかります。先ほどのカニのヨコバイの分岐点までは、登ってきた道を下って行きます。入口が渋滞しているので少し間合いを取りながら、一息入れます。 10mほど下ると、カニのヨコバイの核心部に入っていきます。出だしの一歩目の足場が遠く見えにくいと言われていましたが、難なく足場は見つかり、トラバースを開始します。横に延びている足場は比較的安定しているので、鎖を頼りに5mほどのトラバースを通過すし、その後、打ち込んである鉄杭に足をかけて5mほど下ると、カニのヨコバイも終わりです。 続いて、15mほどの垂直はしごがあり、これを下りていきます。さらに、鎖のあるルンゼ状の下りが20mほど続きます。 これを下ると、平蔵のコルに降り立ちます。ここに平蔵避難小屋がありましたが、内部は荒廃して利用されていないようです。ここからは鋭く尖った岩峰群を通過することになります。まずは、平蔵谷側のテラス状の道を通過すると、鎖がある岩峰の登りとなります。 続いて、小さなコルを越えて、再度鎖のある登りとなっています。この岩峰を越えると、今度は西側に越えて下っていきます。平蔵の頭の右側を巻きながらトラバースしていきます。やがて、主稜線の上に出るとしばらく平坦な道となり、前方に前剱が見えてきました。後方には剱岳がそびえ立っています。 平蔵谷側に寄りながら下ると、鞍部の前剱の門に出てきました。ここから前剱への登り返しとなりますが、途中で前剱を右に巻くように道が進むことになります。このまま前剱を巻いて進むと、やがて登りとの分岐に出てきました。あとは、登りと同じように、前剱大岩の右横を通過し、落石や浮き石の多いところを慎重に下っていきます。 途中でふと目に入ったのはミヤマクロユリの花でした。平蔵のコルまで下ったあとは、最後登り返して一服剱に至ります。もう目の前には、剱沢と剣山荘が見えてきました。 一服剱からも一気に下り、11:25剣山荘に到着です。ちょうど昼時で山荘では昼食を摂っている登山者がたくさんいましたが、剱沢小屋まで行ってからお昼にすることにし、小休止の後、山荘前の地塘のあるところから、左に折れて、剱沢をめざしました。 雪渓を横切りながら、緩やかな坂を登ると剱沢小屋に到着しました。しかし、小屋ではカップ麺しかないとのこと。仕方がないので、もう少し頑張って剱御前小舎まで行くことにしました。再び雪渓を数回横切りながら、別山乗越をめざします。お腹が空いていたこともあったのでしょうが、結構しんどい登りとなりました。 昼前あたりから雲が多くなってきて、青空は消えてしまいました。天気がだんだんと下り坂になっているようでした。別山乗越の直前で、雨がぱらぱらと降ってきましたが、すぐに剱御前小舎に着きました。昼食を注文すると、ちょうど麺類もごはん類もなくなり、カップ麺しかないとのこと。今度は仕方なく、カップ麺とビールで済ませることにしました。すると、雨が激しく降ってきて、登山者が雨宿りにたくさん小屋にやってきました。小屋の入口付近は、雨具を着たり、雨宿りをする登山者で混雑していました。カップ麺を食べながら雨宿りをしていましたが、雨はますます激しくなり、雷鳴が聞こえるようになりました。 しばらく様子を見ていましたが、雨が止む気配もないので、1時間ほど経過したときに、雨も小降りになったのを見計らって、雨具を着て雷鳥坂を下りることにしました。幸いなことに、雷の音も比較的遠いようなので、雷鳥坂を一気に駆け下りました。ちょうど半分くらい下ったときでしょうか。ふと道端を見ると、雷鳥がいるではありませんか。まさに雷の鳥-サンダーバードです。 その後も、スピードを下げず、雪渓もバランスよく走りおりました。40分ほどで雷鳥平まで下りてきました。ここからは、地獄谷を経て、15:00みくりが池温泉まで戻りました。 バスの時間を調べると、まだ1時間あまりあるので、温泉入浴してビールということにしました。温泉の入口で雨具を脱ぎ、靴を脱いでいると、突然のドドーンと轟音、突風が吹いて店の看板が吹き飛ばされたのです。そとでは観光客のおばあちゃんが吹き飛ばされそうになり、店員さんに助けられていました。取りあえず、温泉に入ることにしました。日本一高所(2410m)にある温泉という触れ込みで、硫黄泉です。白濁した湯船に浸かると、疲れが一遍に吹き飛んだような気がしました。しかし、外はビュービューと強い風が吹きまくっているようでした。入浴後、生ビールで喉の渇きを潤しました。 室堂ターミナルまで15分ほど歩くと、16:30の高原バスに何とか間に合いました。バスが進むに従って、ガスも次第に切れてきて、下の方は晴れているようです。立山駅まで来ると、もう晴れています。電車の待ち時間1時間近くあったので、駅前の喫茶店でカツカレー+生ビールです。富山駅でもまた待ち時間があり、駅ビルに居酒屋に入り、そば+生ビールです。最終のサンダーバードに間に合い無事に京都に帰ることができました。 <コースタイム>080727曇り後晴れ後雨 450剣山荘 510一服剱 520武蔵のコル 555前剱大岩 605前剱620発 640前剱の門 705平蔵の頭 715平蔵のコル 725カニのタテバイ 750早月尾根出合 800▲剱岳840発 900カニのヨコバイ 920平蔵のコル 1000前剱の門 1100一服剱 1125剣山荘 1205剱沢小屋 1250別山乗越(雨宿り)1350発 1425雷鳥平 1500みくりが池温泉(入浴)1615発 1630室堂ターミナル
by kitayama-walk
| 2008-07-27 23:17
| 日本百名山
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