2012年 09月 16日
【日 付】 2012年9月16日(日曜) 【天 候】 晴れ 【山 域】 北アルプス/北部 【メンバー】 N野氏、M氏、T氏、kitayama-walk 【コース】 池ノ平小屋-小窓-三ノ窓-池ノ谷乗越-長次郎ノコル-剱岳本峰-平蔵ノコル-前剱-一服剣-剣山荘-剣沢野営場 「剱岳北方稜線」-この言葉には憧れをかき立てる独特の響きがある。2007年7月別山尾根から初めて剱岳に登頂したとき、山頂には金属プレートがあったが、「◯北方稜線:この先キケン 一般登山者は入らないでください(環境庁・富山県)」と書かれていた。北方を見ると、長次郎ノ頭や八ツ峰などの岩峰群が立ちはだかっている。いつかはここを歩いてみたいという願望が生まれた。2011年9月早月尾根から再び剱岳に登ったが、次は北方稜線だと心に決めた。 「剱岳北方稜線」とは、剱岳本峰から北へ、広義では毛勝三山から僧ヶ岳までの黒部川左岸に連なる山々の総称と言われているが、狭義では三の窓から小窓に至る部分を呼称している。今回は、登りで時間がかかるが、迷いにくいと言われる、池ノ平小屋⇒剱岳本峰というコース設定にした。もちろん、一般登山道ではなくバリエーションルートであり、標識、クサリ、ハシゴのような人為的な補助手段はほとんどなく、途中に避難小屋もない。不安定な岩場の登下降、急峻な雪渓の通過技術、的確なルートファインディングなど、すべて各自の判断能力と体力に委ねられると言われている。装備もピッケル、アイゼン、補助ロープも必携とされている。そのため、単独では不安なため、登山経験の豊かなN野氏(京都比良山岳会)に同行を求め、同会の例会として企画してもらい、結局4名で望むこととなった。 今回はテント泊山行としたため、アプローチに時間をかけて、入山することにし3泊4日の行程にした。 9/14(初日)晴れ時々曇り後雨 9:00烏丸御池発→(車)→2:00立山駅(仮眠)7:00→(ケーブルカー)→7:07美女平7:35発(高原バス)→8:25室堂着 8:30室堂⇒9:10雷鳥平⇒10:25別山乗越⇒11:00剣沢小屋11:40⇒12:30長次郎谷出合⇒13:00真砂沢ロッジ(幕営) 9/15(2日目)晴れ後雨 6:50真砂沢ロッジ⇒7:30二股吊橋7:45⇒9:30仙人峠⇒9:50仙人池10:20⇒10:35仙人峠⇒10:55池ノ平小屋11:20⇒12:10池ノ平山12:30⇒13:10池ノ平小屋(幕営) 9/16(3日目)晴れ 3:40池ノ平小屋-4:10雪渓下降点-5:25小窓-7:30三ノ窓7:40-8:20池ノ谷乗越8:35-8:50池ノ谷ノ頭9:00-10:10長次郎ノコル-10:30剱岳山頂11:00-11:10カニのヨコバイ(渋滞)-12:10平蔵ノコル-13:00前剱-13:50一服剣-14:10剣山荘-14:35剣沢野営場(幕営) 9/17(4日目)晴れ 5:30剣沢野営場⇒6:00別山乗越6:10⇒6:45雷鳥平7:00⇒7:40室堂 前日の雨も夜半には上がり、空にはオリオン星座を始めとする星がちりばめられて輝いている。今日は晴天に恵まれるとの期待でワクワクする。このところ、北方稜線を歩く登山者が増えてきており、剱岳本峰からやってくる登山者とすれ違う前に池ノ谷ガリーを越えようと2時半に起床して朝食を摂り、テントを撤収して3時40分にスタートした。もちろん、周囲はまだ真っ暗でヘッドランプを点けて歩き出した。小屋の裏手(テント場)にある細い道に入り、すぐに池ノ平山への登山道を右に分けて進む。この道は旧鉱山道と呼ばれる。それは池ノ平山を中心にモリブデンを含有する輝水鉛鉱が発見された小黒部鉱山があったが、戦後鉱山は閉山となった。この旧鉱山道はアップダウンのあまりない水平道に近いが、実際にはへつり状の溝道になっている。左側が切れ落ちているのだが、実際にはどのようになっているのか暗くてわからない。2008年9月にはこの鉱山道から70m余り転落して死亡するという事故が起きている。池ノ平小屋の管理人の菊池今朝和氏は、北方稜線の山行で最も危険なのは鉱山道であると警告している。 やがて滝の音が聞こえてきた。小窓雪渓に流れ落ちている滝であるが、この滝の少し上部で小窓雪渓に下降することになる。もうそろそろ下降点ではないかと思っていると、岩に記されたペンキで丸印が見つかったので、ここが小窓雪渓への下降点であると確信した。雪渓に降りると、アイゼン(6本爪)を装着したが、このときピッケルを持参するのを忘れたことに気づいた。でも、小窓雪渓の傾斜を見ると、ストックでも対応できると思い、アイゼン・ストックで雪渓を登って行くことになった。気温が低いので雪渓が凍っているが、フラット・フィッティングを決めながら、どんどんと登っていく。雪渓歩きを1時間ほど続けると、小窓雪渓を詰めてしまい、草付きの斜面に到達した(5:25)。ここが小窓である。因みに、剱岳北方稜線には、大窓、小窓、三ノ窓の3つの窓があるが、この「窓」とは長野側からの呼称である「キレット(切戸)」の富山側からの呼称である。小窓の上部の草付きにある踏み跡を小窓の頭に向かって登っていく。最初はお花畑のようなところだが、やがてルンゼ状の急登になり、ハイマツ帯の尾根に出てきた。次第に明るくなってきた東の空に-ちょうど五竜岳と鹿島槍の間に太陽が昇ってきた。振り返ると、昨日登った池ノ平山南峰と北峰が見え、その左には猫又山、釜谷山、毛勝山の毛勝三山も見えている。 小窓の頭に向かって登っていくが、その手前からトラバースして小窓ノ王に向かうことになる。小窓から小窓ノ王までには2箇所雪渓のあるルンゼを横断するところがあるということであったが、最初のルンゼは残雪がなく、単なるガレ場のようなところであった。次のルンゼには雪渓が残っていた。この雪渓は10mほどの短いトラバースになるが、かなりの傾斜で、もし滑落すれば致命的なので、ここはアイゼン&ピッケルで慎重に渡るところである。先頭のN野氏は、ピッケルだけのノーアイゼンでサッサと横断してしまったが、私はピッケルがない。アイゼンを装着し、ストックを雪面に突き立てながら、慎重に一歩ずつ足を進めた。滑落するのではないかという恐怖感と緊張感で足が思うように進まない。しかし、時間をかけて何とか無事トラバースを終えた。ちゃんとピッケルを持参していれば、こんな怖い思いをすることはなかったのである。 雪渓を渡りきると、岩壁のトラバースが続き、やがて小窓ノ王の岩壁が圧倒的な迫力をもって立ちはだかる。ここから草付き斜面を100mほど登っていくと、ようやく小窓ノ王の基部(肩)にやってきた。ここでようやく池ノ谷側が望めるようになる。池ノ谷左俣から突き上げる剱尾根はギザギザになっていて荒々しさを強調している。小窓ノ王の西壁に回り込むと、前方にはジャンダルム、チンネ、池ノ谷ノ頭、そしてガレたルンゼの池ノ谷ガリーが待ち受けているのが目に入ってくる。この小窓ノ王の基部からは池ノ谷側に移り、小窓ノ王の西側を巻いて下っていくことになる。この下りは岩ガレの細いバンド(帯状に延びる岩棚)になっていて、浮き石で転倒しないように注意が必要なところである。この斜形バンドを反対方向(三ノ窓)から登るときには「発射台」と呼ばれている。バンドを下りきったところから少し登ったところに三ノ窓があった(7:30)。 「三ノ窓」は、小窓ノ王と八ツ峰ノ頭とに挟まれた狭い「窓」である。三ノ窓からは、東側に後立山の峰々を見渡すことができるが、特に鹿島槍の端正な姿と五竜岳が印象的である。巨大なチンネの岩壁が聳え立っていて、その左稜線にはクライマーの姿が見える。西側は池ノ谷左俣で剱尾根と小窓尾根に挟まれたルンゼが印象的である。先が長いので小休止の後、出発した。三ノ窓からは池ノ谷ガリーの急登である。小窓ノ王の基部から眺めると、かなりの急傾斜でガレた岩の詰まったルンゼが池ノ谷に落ち込んでいるのがわかっていた。足元が不安定でガレた石がズルズルと崩れて、まるで蟻地獄のようになかなか進まないところだ。さらに前方から登山者が下ってくると落石に危険も大きい。高々150mあまりの登りに1時間もかかってしまう所以だ。前方からの登山者が来る前にここを通過しようと早朝の出発であったが、早くもガリーの下部で女性単独者と出会ってしまった。聞くと上部に3人いるという。落石の危険を少しでも避けるため、ガリー左端に沿って登っていくと、岩の崩れるのが少なく比較的登りやすい。ジャンダルムの下を巻いてどんどん登っていく。途中で男性3人とすれ違ったが、落石の難に遭うこともなく、ガリーを登り終えたところが池ノ谷乗越である(8:20)。 池ノ谷乗越は八ツ峰ノ頭と池ノ谷ノ頭の間の狭いコルである。ここも「窓」になっていて、東には針ノ木岳や蓮華岳が見えている。ここから池ノ谷ノ頭へは50mの岩壁の直登になっている。見た目には垂直に近いが、ザイルまでは要らない登りになっている。上から続々と登山者がクライムダウンしてくるので、しばらく通過待ちとなった。左側のルンゼを登るようであったが、右側の壁もホールドが結構あるので、そう苦労することはなかった。登り着いたところが池ノ谷ノ頭で、展望は抜群である(8:50)。まず目につくのは、そそり立つ尖塔のような八ツ峰とチンネである。こんなに間近に見えるので迫力がある。次には、これから辿る長次郎ノ頭とその向こうに剱岳本峰が屹立している。まるで早く登って来いと言われているようだ。振り返ると、北に延びる北方稜線の、池ノ平山南峰・北峰、白ハゲ、赤ハゲ、赤谷山、毛勝三山と並んでいるのが印象的だ。 池ノ谷ノ頭でほっと一息ついたが、これからまだ岩稜は続く。長次郎ノ頭を越えて行かなければならない。長次郎ノ頭をそのままトップから越えると、20~30mほどの懸垂下降をしなければならないと聞いており、懸垂下降をしないならば、長次郎谷側を巻いて進むことになる。まずは、長次郎谷源頭部は、大きく巻くようにして通過するが、高度感のある岩壁帯のトラバースがある。狭い岩棚を辿っていくが、小さなルンゼがあり、これを跨いで越えなければならない。思い切ってルンゼを跨ぎ、次に小さなバンドを乗り越える。左側がスッパリと切れ落ちているにもかかわらず、足場が不安定なので緊張感が走る。古い残置ハーケンに架けられているお助け紐(補助ロープ)が1本あったので、これを利用すると無事通過することができた。 この先の巻き道で少し迷い下りすぎてしまったが、登り返すと正規ルートと思われる踏み跡が見つかり、長次郎ノ頭を巻いて、コルに降下して行くことができた。うまくルートファインディングすると、ザイルを使って懸垂下降をしなくても無事通過することができたのだ。長次郎ノコルまで辿り着くと、「命のキケン」のある難所は通過し終えたようである(10:10)。コルからはザレた岩場を登り、ピークをひとつ越えると、たくさんの登山者がいる剱岳本峰に着いた(10:30)。 池ノ平小屋を出発してから約7時間かかったが、ともかくも剱岳北方稜線を無事縦走することができたことを仲間とともに喜び合った。これまで別山尾根、早月尾根と2つの方向から登った剱岳であるが、北方稜線から登ってくると、何だか違った場所のように思えるのは不思議である。
by kitayama-walk
| 2012-09-16 23:52
| 日本百名山
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